2015年5月30日土曜日

仕上げ洗い (ウール・カシミア編)

仕上げ洗いは日常の洗濯と違い、機から降ろした網のような物を布に仕上げる織の最終段階です。手紬・手染めの場合は特に汚れ、油分、余分な染料などを除く目的もありますが、ウールやカシミアの場合繊維の本来の縮む性質を利用して多少フェルト化させます。カシミアは動物性繊維の中でも比較的縮まないほうなので写真では劇的な結果をお見せできませんが、それでも布の表面が水をはじくところまで「加工」します。写真は複数のカシミアの作品を縮絨した時撮りましたので作品がコロコロ変わります。

私は洗い、アイロン、そして乾かしている間、常に経糸緯糸が「平行・垂直」になるよう、これが崩れないよう気を付けています。

1) 機から降ろした作品を一日二日休ませ、織り間違えの修正、フリンジなど仕上げをします。
2) シンク又は容器に蛇口から出てくる一番熱いお湯を入れます。我が家では54C前後です。ゴム手袋をし、毛糸用洗剤又はシャンプーを混ぜます。量は通常の手洗い程度、特に脂っぽい繊維を使った時は少し濃いめにします。油の付いたままの原毛を使った時は台所用の洗剤で油を落とす時もあります。

3) お湯を止め洗剤を十分溶かし、作品をたたんでお湯の中にそっと載せ、そのまま繊維が石鹸水を吸い込んで沈むまで待ちます。そっと手で押して沈めても結構ですが、急がずゆっくり沈めます。そのまましばらく放っておいても構いません。繊維が完全に石鹸水を吸収し沈むまで待ちます。
4) お湯の中で押し洗いします。洗うというより、押して繊維から石鹸水を出し、手を放して繊維に石鹸水を吸わせるという繰り返しです。なるべく掌、手の甲を使います。
5) 小さい作品は掌と掌の間に挟んで、大きいものは石鹸水を捨ててから作品を押して水を切ります。

6) シンク・容器に蛇口から出てくる一番冷たい水を入れ、一杯になったら水を止めて作品を入れ、押し洗いします。形を崩さないよう留意しながら、石鹸水の時よりも多少作品を荒く扱っても大丈夫です。水の中で作品を広げたり、畳んだりして、違う部分を押します。又、糸を染める時のように手または指をまっすぐにし、その上に作品をかけて水から出したり、沈めたりする時もあります。(下の写真は片手ですが、通常指先と指先をつなげて両手を使います。染同様棒を使ってもいいでしょう。)
お湯・水が局部的に当たると、そこだけ縮絨の加減が変わりますから、ここまでは作品を蛇口から出てくるお湯・水に直接触れないように留意します。4) ・6)の段階でどれくらい長く押し洗いをするかは作品・繊維・作家によりますが、この時点ではまだ繊維はあからさまには見かけは変わりませんので、繊維が十分お湯・冷水を含んで水温が低下・上昇するまでを目安にします。

7) 小さい作品は掌と掌の間に挟んで、大きいものは冷水を捨ててから作品を押して水を切ります。

8) シンク・容器に蛇口から出てくる一番熱いお湯を入れ作品を入れ洗います。ウール・カシミアは急な温度の変化と摩擦により縮絨しますので4) ・6)より荒く扱買って構いませんが、縮絨は逆戻りができないので、ゆっくり急がず洗います。

この段階で多少お湯を出しながら洗うこともありますが、この時は作品に直接、局部的にお湯が当たらないよう注意します。通常この時点で作品の表情が変わってきます。母はこれを「布の表面に水玉が転がる」と表現します。また染料、毛足の短い繊維、(私の使うポッサムは特に頻繁に、)ゴミなどが沢山出ます。これものぞけるものは除いて洗います。
9) 小さい作品は掌と掌の間に挟んで、大きいものは温水を捨ててから作品を押すか、洗濯機で軽く脱水し、水を軽く切ります。

10) シンク・容器に蛇口から出てくる一番冷たい水を入れ、ウールの場合はお酢を少々足し、一杯になったら水を止めて作品を入れ、押し洗いします。水の中で作品を広げたり、畳んだりして、違う部分を押します。又、糸を染める時のように手または指をまっす ぐにし、その上に作品をかけて水から出したり、沈めたりする時もあります。蛇口から水を少量出したまま、丁寧にゆすぎます。

11) 小さい作品は掌と掌の間に挟んで、大きいものは冷水を捨ててから作品を押し、水を切ります。作品の形を崩さないよう畳むというより巻き、作品によってはバスタオルなどで包み、洗濯機で脱水します。大きいものは途中で洗濯機を止め、包み直して脱水を続けます。
12) 通常これで縮絨・仕上げ洗いは終了ですか、縮絨が足りない場合、8)から11)を繰り返します。

13) 作品の形が崩れないようアイロン台に載せ、アイロンはスチーム出力最大、 熱めの温度で日本手ぬぐいのような当て布の上から押すようにかけます。当て布の上でアイロンを滑らさず、アイロンを持ち上げ軽く押すようにアイロンの位置を動かしていきます。A面をプレスしたら、B面も同じようにプレスします。

14) 作品によって当て布を外し、そのまま最大のスチームでプレスする場合もあります。形が歪んでいる部分はやさしくひっぱりながらアイロンをすると歪みが多少取れることもあります。アイロンは作品の上で滑らさず、やさしく抑えるようにかけます。

15) 我が家では生乾きの作品をウールの絨毯の上に形を整えながら広げて乾かします。実家ではバスタオルを床に広げ、その上に作品を置きました。どうしてもしわがあったり形が格好悪い場合、ウールの絨毯やタオルの上からさらにスチームアイロンを掛けることもあります。
16) 乾くまで十分ほったらかしにします。乾いたらもう一度、ほつれ、無駄な糸が出ていないかなど見直します。フリンジの先もきれいに切りなおします。

手順は決して一通りではなく、最適の結果も作意、目的、糸・作品の種類・大きさ、手持ちの道具、好みなどにより変わりますので、実験をお勧めします。

お恥ずかしい限りですが、上の写真の白黒の作品は縮絨に関連にした大事なレッスン。急いで織った作品で、白とグレーの緯糸が同じカシミア100%だと思い込んで織りあげ何も考えずに洗ってみて思い出しました。白はカシミア・シルクで縮絨の率が違います。さらに残念なのは同じグレーのカシミア・シルクも持っていたという点です。ペケ。

最近はニュージーランドと言えどもスケール、(表面の鱗状のひだで、これが縮絨を可能にする、)の付いたウールが手に入らなく、変わって洗濯機で洗えるスーパーウォッシュばかり出回るようになりました。結果仕上げ洗いも変わり、最近は洗濯機を使って縮絨という作家も大勢おられますが、私はウール・カシミアでは未だ洗濯機を使ったことはありません。

これはあくまでも仕上げ洗いのお話ですので、作品を使い始めたら、通常のように低温で丁寧にウール洗いで押し洗いしてください。

2006年に大型のウールの作品の縮絨を英語版に載せました。オーストラリアのHPで、ウールの特性について日本語の説明があります。又、友人がここにウールとカシミアの違いを説明しています。